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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)1964号 判決 1977年3月24日

原告

石川島コーリング株式会社

右代表者

山田秀雄

右訴訟代理人

木ノ宮圭造

外二名

被告

岸本収

被告

窪田忠一

右被告両名訴訟代理人

横山昭二

主文

一  被告らは原告に対し、各自金四、二七四万四、七〇〇円と、これに対する昭和五〇年五月一八日から支払ずみまで、年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金四、六六六万三、七〇〇円と、これに対する昭和五〇年五月一八日から支払ずみまで、年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一、請求の原因

1  原告はトラツククレーンその他の大型建設機械の製造販売を目的とする株式会社である。

2  原告は右訴外会社に対し、別表(イ)乃至(ハ)記載のトラツククレーン三台を、同表販売契約日欄記載の各日に同表代金欄記載の各代金で、いずれも右訴外会社が取引停止処分を受け、若しくは債務の履行の一つでも怠つたとき、又は信用を著しく失つたときは、原告は無催告で契約を解除し、残債務を一時に請求でき、且、訴外会社は本件各機械を直ちに原告に返還し、原告はこれを任意処分したうえ右処分代金から処分に要した諸費用を優先控除した残額を訴外会社に対する債権の弁済に充当できる旨の約定を付して割賦販売した。

3  被告岸本収は右各割賦販売契約の日に、被告窪田忠一は昭和四六年六月一〇日、それぞれ原告との間で、右訴外会社が原告に対して負担する右割賦販売契約上の債務について連帯保証をした。

4  右訴外会社は、右各機械の代金のうち、別紙代金弁済欄記載の各金員を支払つたが、昭和四六年一二月三日倒産して以後残代金を支払わないため、原告は同年同月二四日右訴外会社に対し、第二項記載の各割賦販売契約を解除する旨の意思表示をした

5  原告は、右訴外会社から各機械の返還を受け、これを別表(機械任意処分内容)欄記載の通りそれぞれ任意処分し、同表の転売代金から転売に要した経費合計額を控除したものを訴外会社の弁済があつたものとして処理したから、その差額について原状回復請求権を有する。

従つて、各機械について左の算式により、

(機械代金額)―(代金弁済額)―(転売代金額)+(転売に要した経費合計額)

別表(イ)の機械につき、金二、三四〇万円―金四九五万円―金一、三二〇万円+金一〇〇万円=金六二五万円、同表(ロ)の機械につき、金二、三八一万六、七〇〇円―金三三〇万円―金一、三三〇万円+金二三二万八、〇〇〇円=金九五四万四、七〇〇円、

同表(ハ)の機械につき金七、〇六五万円―金五六八万円―金三、八〇〇万円+金三八四万九、〇〇〇円=金三、〇八一万九、〇〇〇円

右機械三台について合計金四、六六一万三、七〇〇円の原状回復請求権を有する。

6  よつて、原告は被告らに対し、前記連帯保証契約に基づき、原告が訴外会社に対して有する契約解除による原状回復の請求と同額の保証債務の履行として、各自金四、六六一万三、七〇〇円と、これに対する被告らに対する訴状送達が遅れたほうの日の翌日である昭和五〇年五月一八日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求の原因に対する認否

1  請求の原因1乃至4の各事実は認める。

2  同5の事実中、原告が本件各機械の返還をうけ、これを任意処分したことは認めるが、金額関係は争う。

(一) 訴外会社は原告に対し、本件機械を新品同様の状態で返還したから、原告は既に原状回復を受けている。

(二) 機械代金は三年一一ケ月乃至三年六ケ月の長期分割払であり、右代金額にはその間の金利(年一割以上)が含まれているからこれを控除すべきである。

(三) 機械代金が原告主張のように定められたのは後記3の経緯によるもので、実際の価額は当時の低需要に照して別表の転売代金程度であつた。

3  訴外会社が本件機械を購入したのは、これを購入すれば原告が工事受注を斡旋し、斡旋できない場合は右機械を返還してくれればよいとの原告の懇願や、原告が一方的に本件機械を搬送してきた等の事情があつたためであり、それにも拘らず原告は右約旨に反してその後工事受注の斡旋をせず、これが訴外会社倒産の原因ともなつたのである。

4  契約解除による原状回復請求権は、主たる債務に従たるもの(民法四四七条一項)ではないから、特約のない限り保証人はこれを履行する責任はない。

三、抗弁

1  原告の被告らに対する本訴請求権は、割賦販売契約が解除された昭和四六年一二月二四日から二年の経過とともに消滅時効(民法一七三条一号)が完成したから被告らは本訴において右時効を援用する。

2  訴外会社は、同会社倒産直後頃、原告との間で、原告に対し機械の返還をなし、これにより原告はそれ以外の一切の請求をしない旨の合意をなし、訴外会社はそのころ原告に対し、右合意に従つて本件機械を返還した。

四、抗弁に対する認否

抗弁は争う。

原告の訴外会社に対する請求権は割賦販売契約解除によつて新たに発生した原状回復請求権であり、割賦販売代金請求権とは異なるものであるから、民法一七三条一号の適用はない。

第三  証拠<略>

理由

一請求の原因1乃至4の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二同5の事実中、原告が本件各機械の返還をうけ、これを任意処分したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右任意処分は別表記載のとおりの転売先、転売代金及び転売に要した経費によることが認められ、右認定に反する証拠はない。これらの事実によれば原告は原状回復請求権として(機械代金額)―(代金弁済額)―(転売代金額)+(整備修理に要した経費)の算式により(別表転売に要した経費欄のうち整備修理に要した経費以外の費用は原状回復請求権の範囲に含まれるとは解せられない)、

別表(イ)の機械につき、 金五三五万円

金二、三四〇万円―金四九五万円―金一、三二〇万円+金一〇万円=金五三五万円

同(ロ)の機械につき、 金九四二万四、七〇〇円

金二、三八一万六、七〇〇円―金三三〇万円―金一、三三〇万円+金二二〇万八、〇〇〇円=金九四二万四、七〇〇円

同(ハ)の機械につき 金二、七九七万円

金七、〇六五万円―金五六八万円―金三、八〇〇万円+金一〇〇万円=金二、七九七万円

右三台について合計金四、二七四万四、七〇〇円の債権を有するものと認められる。

被告らは、訴外会社は原告に対し本件機械を新品同様の状態で返還したこと、本件機械の代金額には長期分割払期間中の金利分が含まれているからこれを控除すべきこと、訴外会社が右機械を購入した当時の時価は、原告がこれを転売した時の転売価額と同程度であつたとし、原告は既に原状回復をうけたか、あるいはその債権額は原告主張の額より少ないと主張するから、その主張を考慮しつつ本件の証拠を検討しても、右認定を妨げる証拠はない。

三次に抗弁1について検討する。

原告の本訴請求は契約解除による原状回復請求権に基づくものであるところ、その本質は不当利得返還請求権であつて、本来の代金債権とは性質を異にするが、両者の取扱いについて、その性質上の差異から異別に扱い、或いは同様の扱いにするかは、場合場合によつてこれを決する必要があると解される。そこで右原状回復請求権にも民法一七三条一号所定の短期消滅時効の適用が考えられるかについて検討する。同条同号所定の短期消滅時効はそこに定められた各債権が、その正常な日常取引において頻繁に発生し、且代金決済が迅速に処理される慣行にあることにその証拠があると解されるところ、本件において右原状回復請求権は契約解除という非正規的、偶発的事故に基づいて生じたものであるから、右法意に照してみれば、右請求権に民法一七三条一号の適用はないものと解するのが相当である。従つて右原状回復請求権は、本来の割賦販売契約上の代金債権が商行為によるものであることに基づき、商法五二二条本文により五年間の消滅時効に服するものということはできても、未だその時効期間の到来がないから、右抗弁は理由がない。

四抗弁2については、本件の全証拠を検討しても、これを認めるに足る証拠はない。

五ところで、売買代金債務と契約解除による原状回復義務とは性質を異にすること前示のとおりであり、売買契約における買主のための保証人が、買主の代金債務不履行による解除に基づいて生じた原状回復義務についても保証の責を負うものと解すべきかは問題であるが(売主のための保証人について最高裁判所昭和四〇年六月三〇日大法廷判決民集一九巻一一四三頁参照)、買主のために保証をする場合においても、買主の代金支払債務のみを保証する趣旨の保証とみるべき場合は例外的な場合であつて、一般的には買主の負担する一切の債務について保証をし、その契約の不履行によつて相手方である売主に損害を被らせない趣旨のものと認めるべきであるから、特に反対の特約の存在が認められない本件において、被告らは訴外会社の原状回復義務についても保証の責に任じなければならない。

六以上の理由により、原告の被告らに対する本訴請求は、右原状回復義務の履行として必要な金四、二七四万四、七〇〇円と、これに対する被告岸本収に対する訴状送達の日であることが記録上明らかな昭和五〇年五月一七日の翌日である同月一八日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項但書、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(志木義文 二井矢敏朗 中村直文)

別表<省略>

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